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散歩中、母は上機嫌で、汀の砂を裸足に跳ねながら、童謡を口遊んでいた。私は彼女の草履を手に、一間ほど後を随いながら、これが最後になる事を、自分に納得させようと足掻いていた。
青い月夜の浜辺には
親をさがして鳴く鳥が
波の国から生まれ出る
ぬれた翼の銀のいろ
『浜千鳥』の一番。晴れ空を浮かべた水面に、風が縮緬の様なさざ波を打っていた。月明かりでなく、朝の陽射しが波紋を煌めかせ、無数の白千鳥の羽にも見えた。
「鳴いても見付からないのよ」
しわがれた呟きが、不意に私を刺した。
「空の上にも、波の間にもいないの。水に映った月影なのよ」
二番を歌い出す先に、私は母に追い付き、手を引いて足を早めた。
「映る時は波がない。波が立てば映らない」
……だからもう、探さないのよ?
呟きは千鳥の声に紛れた。
風が飛沫を舞い上げ、思わず目を覆った。
私の手に草履だけが残った。
四十九日の夢だった。
青い月夜の浜辺には
親をさがして鳴く鳥が
波の国から生まれ出る
ぬれた翼の銀のいろ
『浜千鳥』の一番。晴れ空を浮かべた水面に、風が縮緬の様なさざ波を打っていた。月明かりでなく、朝の陽射しが波紋を煌めかせ、無数の白千鳥の羽にも見えた。
「鳴いても見付からないのよ」
しわがれた呟きが、不意に私を刺した。
「空の上にも、波の間にもいないの。水に映った月影なのよ」
二番を歌い出す先に、私は母に追い付き、手を引いて足を早めた。
「映る時は波がない。波が立てば映らない」
……だからもう、探さないのよ?
呟きは千鳥の声に紛れた。
風が飛沫を舞い上げ、思わず目を覆った。
私の手に草履だけが残った。
四十九日の夢だった。
ファンタジー
公開:20/03/28 00:07
散歩道で見た
シーズン2-⑪波間の白光
浜千鳥(鹿島鳴秋/弘田龍太郎)
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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