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散歩中、庭の椿の花を見て、紅御前が仰った。
「あな悔し。白椿が咲いてある」
やれまずい。一昨日塗った朱墨が、昨夜の雨に流れたか。
鳩司の紅御前。癇癪持ちの紅御前。儂を指して仰った。
「刎ねておしまい」
二月前は蹴鞠会。一月前は紅白碁。
有栖川の白姫に、紅御前が負けたのさ。
悔し悔しと紅御前、庭を睨んで仰った。
「伐っておしまい」
勝てたためしもないものを、哀れ庭の白椿。
されど伐らねば首が飛ぶ。庭師の儂の首が飛ぶ。
斧を担いでえいやぁと、振るったところへ涙声。
対で植えた紅椿、片割れ伐るなと儂に泣く。
だから儂が塗ったのさ。揃いの紅に塗ったのさ。
「刎ねておしまい」
斧を担いでえいやぁと、振るったところへ落椿。
紅白揃って花首が、ぼたりぼたりと落椿。
「刎ねておしまい」
「刎ねておしまい」
「刎ねておしまい」
終いに全部落っこちて、庭の椿は赤裸。
落ちが付いた儂の話も、跳ねておしまい。
「あな悔し。白椿が咲いてある」
やれまずい。一昨日塗った朱墨が、昨夜の雨に流れたか。
鳩司の紅御前。癇癪持ちの紅御前。儂を指して仰った。
「刎ねておしまい」
二月前は蹴鞠会。一月前は紅白碁。
有栖川の白姫に、紅御前が負けたのさ。
悔し悔しと紅御前、庭を睨んで仰った。
「伐っておしまい」
勝てたためしもないものを、哀れ庭の白椿。
されど伐らねば首が飛ぶ。庭師の儂の首が飛ぶ。
斧を担いでえいやぁと、振るったところへ涙声。
対で植えた紅椿、片割れ伐るなと儂に泣く。
だから儂が塗ったのさ。揃いの紅に塗ったのさ。
「刎ねておしまい」
斧を担いでえいやぁと、振るったところへ落椿。
紅白揃って花首が、ぼたりぼたりと落椿。
「刎ねておしまい」
「刎ねておしまい」
「刎ねておしまい」
終いに全部落っこちて、庭の椿は赤裸。
落ちが付いた儂の話も、跳ねておしまい。
ファンタジー
公開:20/03/25 18:15
更新:20/03/25 19:27
更新:20/03/25 19:27
散歩道で見た
シーズン2-⑦紅白椿、落椿
和風アリスとマザーグース
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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