止まっている矢は飛んでいない

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 ヒュン、という音がして、額の真ん中がチクリとした。
 蚊か? いや。蚊にはまだ早い。僕は少しイライラした。
 横断歩道の信号がなかなか青にならない。耳のすぐ近くで雑踏がボワボワと響いている。今、晴天の交差点上には人も車もなくてとても静かだ。
 続いてトンと額を小突かれる感覚があり、左右の、耳と上の奥歯がキーンと痛んだ。
 何かがおかしい。僕は目玉を左右に動かした。だが周囲の状況に変わった様子はなかった。
 バキッという大きな音が響いた。小突かれたという程度の衝撃ではないが、拳骨で殴られたのとも違う。デコピン? それも違う。僕はかなりイライラした。
 この衝撃は僕の頭に入りこもうとしているみたいで、例えば棒状の、例えば「矢」が今、僕の額に、まさに突き刺さっている最中だとしたら、どうだろう?
 うん。その想像が一番しっくりくるな……
 僕はウンと頷きながら、ゆっくりと、仰向けに倒れていった。
その他
公開:20/03/25 16:50

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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