約束の紋白蝶

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祖母のお見舞いに行った。庭に飛んでいた、たくさんのモンシロチョウをカゴに入れて、見せてあげたいと思った。
「たくさん捕まえたよ」
葉っぱの下に隠れている蝶々も見せたくてカゴを開けた。その隙間から、するりと蝶々がすり抜けた。
一匹、また一匹。ヒラヒラと蝶が部屋に舞う。最後の一匹まで抜け出すのを眺めていた祖母は、目を細める。
「きれいだねえ」
祖母の時間は、少女の頃まで時間が巻き戻っている。指に止まった蝶々を嬉しそうに見つめて、うっとりと眺めている。
「けんちゃん。約束を守ってくれてありがとう」
僕はずっと、死んだ祖父と勘違いされていた。でも構わない。僕は祖母とのこの時間を愛おしく感じていた。
蝶々たちは風の申し子のように、窓から青い空に舞い上がった。最後はお日様に溶けたみたいになって、白く光って見えなくなった。
3日後。祖母は眠るように息を引き取った。微笑みを浮かべた、穏やかな最後だった。
その他
公開:20/03/25 14:31

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
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『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

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