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やまない鍋はない。
その言葉どおり三日降り続いた鍋は明け方にやんだ。激しい鍋だった。気象庁は今までに経験したことのない鍋に最大限の注意をするように訴えていた。私は町会長として桜まつりの中止を決断した。川沿いのソメイヨシノが満開になったばかりで今回の鍋だ。住民の安全を考えればまつりの中止は仕方ないけれど、桜の木が折れてしまうのはつらいから、私は廃材を使って全ての桜木を小屋のように囲っておいた。
古来から鍋は人々の生活を潤してきた。鍋がなければ今の繁栄もなかっただろう。ただ鍋は一度牙をむくと人の命を奪うことだってある。
鍋上がりの空は抜けるように青く美しいけれど、富士山は鍋に削られていびつな形をしていた。
川沿いの桜木は小屋のおかげで無事だった。見ると、私より先に来て散乱した鍋を回収している男がいる。去年死んだ町会長。親友だった男。まさか。そんなはずはない。
「田鍋?」
「いやぁ。まいったよ」
公開:20/03/27 10:37
更新:21/03/25 09:13

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