胎動

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僕には、生まれる前の記憶がある。暗く狭い胎盤の中で、いつ出れるともわからない恐怖にただただ身を捩ることしかできなかった。

柔らかな肉壁を叩いてみても、出口は見当たらない。全く光の届かない小部屋が日に日に窮屈となり、いつか身じろぎすらできなくなる日の事を思うと、不安に押し潰されそうになった。

ある時、体を回転させようとすると首に何かがまとわりつくのを感じた。手探りに辿ってみると、それは僕のお腹から生え、肉壁に繋がっているようだった。

壁と同じく弾力のあるそれは真綿の如く僕の首を柔らかに締めた。苦しくはないのだが、さらに動き辛くなったことが僕を戦慄させた。

ーー元気な男の子ですよ!

狭い肉部屋から飛び出した僕の視界はとにかく眩しかった。ここまでが生まれるまでの記憶だ。

僕は未だに暗く、狭い場所は苦手だ。

人は暗闇を払うため、たくさんの発明をした。恐怖の記憶を無意識の内に払う様に。
その他
公開:20/03/26 19:52

游人

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