ナギサナギ

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散歩中、ナギサナギの枝に、角芽が顔を出していた。枯れ色に丸まった蛹葉が鈴生りに垂れる上端に、半分殻を被った黄緑がぽちり。もうすぐ葉化だな。私は鼻歌を吹いて道を下り、次の雨を楽しみに待った。
ナギサナギは国指定の幻想記念物だ。飛蝶貝の一種である、ワカバシジミの寄生木として有名だが、近年個体数が激減している。大規模な葉化が見られる木は、町にこれ一本きりだった。

春雨が数日続き、ナギサナギの根元に池を結ぶ頃、殻を脱いだ角芽ははちきれんばかりに膨らみ、役目を終えた蛹葉は、貝の様に縮こまっていた。ワカバシジミの産卵から、妖生期の家であり栄養源でもあったナギサナギの葉を、雨の雫が洗っていく。透明な雫は次第に枯れ色に滲み、蛹葉を融かしてナギサナギの根に還る。この雨がまた、翌秋の葉を茂らせるのだ。
蛹葉が流れ尽くした枝から、二股の水管をぴんと張り、若羽を広げたシジミ蝶貝の大群が、雨雲の海へ泳いで行った。
ファンタジー
公開:20/03/26 17:08
散歩道で見た シーズン2-⑨枯葉の世代交代 ※90%ファンタジーです。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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