海辺の理髪店

海岸通りの店舗は一軒二軒と移転したり廃業したりで、ぽつんと理髪店だけが残った。理髪店は正面から見ると正方形を二つ積んだ二階建ての、青空に映える真っ白な建物だ。
その理髪店も半年ほど前に店を閉めた。初老の店主が高齢のせいか、経営が立ちゆかなくなったのか。長年つづいた店を閉めて店主一家は越していった。店の閉まったガラス戸を覗くと理髪用の椅子が三台、ひっそりと並んでいる。

最近、妙な噂が広まった。理髪店主がAIロボットだったというのである。思い当たるフシがなくもない。
店主は年の割に肌つやがよかった。無口で、日本語を習い始めた外国人のようにたどたどしく喋った。夕方には奥歯からギィーッとギアが噛み合わないような音を立てると、カミソリ研ぎ革の横でゴムチューブを咥えた。燃料補給でもするように。
店主には妻子があった。ふくよかな若々しい奥さんと元気のよい小学生の女の子。彼女らもまた・・？