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散歩中、頭上遥かな芽待ちの梢に、春めいた萌黄を認めた私は、つい足を止めてしまいました。
ゆりかごの様な、鳥の巣の様な、樹影の細さに似つかわず、肥大し入り組んだそれは、冬を越したヤドリギの枝塊でした。
聖夜のヤドリギの下で、男女は口づけを交わさねばならない。
ケルトの神話に由来する風習。私に教えてくれた彼は、傍目にも緊張した唇で、必然であるかの言い方をしました。一昨年の聖夜、零時の鐘の五分前でした。
チリ、チリリ。
明るい囀りを響かせて、レンジャクが二羽、顔を出します。
実を啄みに来たのだ。なだめようとする頭の一方、彼らはつがいだろうか。考えて沈む私は、片翼の永久に捥ぎ取られた、去年の夜を越せずにいたのです。
ぽと。ぽたり。
連雀の啄み損ねたヤドリギの実が、樹下の私を小さく打った時、透明な糸を引いた、彼の温度が唇を掠めました。
コツ。コツリ。
私の中のゆりかごを、雛鳥の嘴がつつきました。
ゆりかごの様な、鳥の巣の様な、樹影の細さに似つかわず、肥大し入り組んだそれは、冬を越したヤドリギの枝塊でした。
聖夜のヤドリギの下で、男女は口づけを交わさねばならない。
ケルトの神話に由来する風習。私に教えてくれた彼は、傍目にも緊張した唇で、必然であるかの言い方をしました。一昨年の聖夜、零時の鐘の五分前でした。
チリ、チリリ。
明るい囀りを響かせて、レンジャクが二羽、顔を出します。
実を啄みに来たのだ。なだめようとする頭の一方、彼らはつがいだろうか。考えて沈む私は、片翼の永久に捥ぎ取られた、去年の夜を越せずにいたのです。
ぽと。ぽたり。
連雀の啄み損ねたヤドリギの実が、樹下の私を小さく打った時、透明な糸を引いた、彼の温度が唇を掠めました。
コツ。コツリ。
私の中のゆりかごを、雛鳥の嘴がつつきました。
ファンタジー
公開:20/03/25 10:26
散歩道で見た
シーズン2-⑥ヤドリギ(宿木)
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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