待合室の扉

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五分前になったので内線を手に取る。
「受付の加藤です。」
受話器の向こうから、必要最小限の情報が滑らかに出力される。
「帝都大学の横山です。十一時から面談で伺いました。」
「かしこまりました。おかけしてお待ち下さい。」

小さなガラス机と二人掛けの黒い革製ソファが中央に置かれているこの空間は、いくつかの扉に面している。どこから担当者が現れるのだろうか。視線を感じるようで落ち着かない。エントランスとも待合室とも言い難い、微妙な空間。
とにかくはっきりした空間に出たいとすら思う。面談の合否次第では、扉の向こう側で働くことになるだろう。新しいことは嫌いではない、むしろワクワクする方だ。どんな経験が待っているだろうか。

「横山さん、お待たせしました。」
扉の一つが開かれた。
その他
公開:20/03/22 16:47
更新:20/03/22 16:50

蒼井 一

『日本語の美しさを体感したい、体現したい』
物語が好きです。よろしくお願いします。

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