夜の散歩

44
14

 夜の空には、月が銀の丸鏡のように浮かんでいた。
 海の砂浜は、象牙色に照らし出されて、ゆるく弧を描いている。
 一握の砂を風に流すと、細かな粒が淡く輝きながら、宵闇に吸い込まれていった。
 夢を誘う潮騒は絶え間なく続き、時おり遠い自動車の駆動音がそこに加わる。
 むごたらしく砂に埋もれた老骨のような流木を拾い上げる。
 それは海からの風変わりな手紙だった。
 遠い土地で芽吹き、逞しく生長し、やがて老衰し、嵐になぶられ、水へ流され朽ち果てて、樹はここに辿り着いたのだ。
 その記憶が、干涸びた身の細部に刻まれている。
 私は流木に火をつけ、火葬することにした。
 火の粉は砂のように舞い、それよりも強く風の中へ、赤い熱を帯びた光を放ち、宵闇のさらに向こうへと飛んでいく。
 今度こそ、仕事を、最後まで終わらせなければならない、と私は思った。
 あと少しだけ、もう少しだけ、この海と語ったら。
その他
公開:20/03/23 08:20
更新:20/03/23 08:21

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容