風物詩

毎年、春が近づくと必ずお隣から言い争う声が聞こえてくる。
「アンタ！もういい加減そのコート脱ぎなさい！暑苦しいったらありゃしない！」
「うるさい！俺は冷え性なんだ。これぐらい着込んでないと凍っちまうんだよ！」
夫婦喧嘩は徐々にヒートアップしていく。
俺はその声を聞き、ああ…今年も始まったなと心躍らせる。
なにせ隣に住む夫婦は雪女と雪男なんだ。俺だって最初聞いた時驚いたよ。雪男さんのあの大きな体がまさか着ぶくれだとは思わなかった。
一度、全身すっぽり覆うもこもこのファーコートを貸してもらった事がある。凄く暖かく、布団の中にいるようだった。確かに一度あれを味わってしまうと脱げと言われた時、躊躇ってしまう。
「もう嫌！耐えられない！実家に帰らせてもらいます！」
出た！雪女さん、実家に帰ります宣言！
この後、雪男さんが渋々あのコートを手離すんだよな。今年の夫婦喧嘩もこれにて終了か。
もう、春だな…