短い日記

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出会いは言葉で始まった。彼女とは電話でもメールでも文章のかけ合いを楽しんだ。デートでは熱い単語を交わし合う。やがて一緒に暮らした。毎日を楽しい修辞で埋めて僕たちは愛し合った。
いつしか文節が途切れがちになった。どこで段落を間違えたのだろう。彼女の語彙を僕はうまく受けられず返せなくなった。
彼女は修飾句を捨てた。形容詞も形容動詞も副詞も僕には投げなかった。次に動詞をなくした。心の動きも身体の動きもわからない。ついに名詞を消した。普通名詞も固有名詞も捨ててしまった。
そうして彼女は出ていった。彼女の部屋には助詞も助動詞もない。句読点がぱらぱらと落ちていた。短い日記のような日々だった。

彼女から手紙が届いた。真四角な封筒には二つ折りの厚紙。表側には小さなネズミが走るイラストのスタンプが押してある。
紙を開くと何も書かれていない。内側からキュルキュルと鳴く声がした。彼女のオノマトペだった。
その他
公開:20/03/21 06:36

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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