カリオストロ伯爵の妻

　カリオストロ伯爵は実は貴族ではない。
　ジュゼッペ・バルサモという名前の本屋の息子である。
　偽名で身分を詐称し、ただの手品を本物の魔術に見せかけては、ヨーロッパの上流階級を相手に数々の詐欺を働いた稀代のペテン師であった。その相棒が妻のロレンツァである。
　ロレンツァは十五歳で夫と出会い、結婚した。二人はパリ、ロンドン、ローマなど、多くの街で大金を手にしては投獄され、逃亡し、そしてまた王族に取り入った。夫婦は仲睦まじく、美しいロレンツァは時に娼婦、乞食になってでも夫を支えるほど熱心に尽くしたという。
　ところが、後年そのロレンツァの告発により、カリオストロは身分詐称がバレてしまい、ついに終身刑を受けてしまう。そして、彼は五十一歳で獄中死した。
　私は知りたい。
　なぜそこまで愛した男を彼女は最後に裏切ったのか。夫の死を彼女はどんな気持ちで受け入れたのか。
　全ては歴史の闇の中である。