アンティークショップの時計たち

13
6

店主が寝静まった頃、鷲柄が口火を切りました。
「俺は凶弾から主を庇って死ぬってのが夢だ」
「嫌ね野蛮で、私は華やかなパーティーに行きたいわ」
薔薇柄が返すと、今度は羅針盤柄です。
「僕は船乗りと世界中を旅したいな」
硝子棚の中、懐中時計達は夢を語って盛り上がります。
「新入りはどうだい」
兎柄が今日来た新入りに訊ねました。
その新入りは大層細かなティアラの柄に宝石が散りばめられ、窓から漏れる薄明かりにも煌く美しい姿をしており、皆は一斉に注目しました。
「私は共に外出して下さる方ならばどなた様でも」
「つまらない謙遜は止しとくれ」
蛙柄が茶化すと、新入りは続けます。
「私は最初の主に買われてから80年間飾られるだけでした、一度でも良いから懐で時を刻みたいのです」
可哀想な新入りの生い立ちに皆が閉口する中「疲れた」が口癖な店の柱時計は「頑張ろう」とつぶやき、翌朝には1分ほどズレておりました。
ファンタジー
公開:20/03/20 14:23
月の音色 月の文学館 時計のつぶやき 朗読頂き感謝

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容