社長の新築祝いに現れた紳士

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「どうだい、この新しい家は! 貧乏人には買えんよ、貧乏人には!」
 都内の一等地に建つ新邸宅に呼ばれた腹心の部下は、社長の気持ちを快くさせる言葉を必死に考えつつ門扉をくぐった。この家のどこを褒めれば…。
「大きくて、いい家ですね、社長!」
「うんうん…」
 社長は耳を傾けたままだ。どうやら褒め言葉が足りないらしい。
「それに…あの白くてキレイな壁!」
「壁? まぁ、たしかに壁は白いけど」
 まずい。言葉選びを間違えたかも。
「おい!そんなことでお前の気持ちが伝わるものか!」
 突然、一人の紳士が同じ門扉から入ってきた。
「いいか、社長の家を褒める時ってのは、こうやって伝えるんだあああ!!」
 紳士は腕まくりをすると、柱の如き巨大な毛筆の先にたっぷりを墨汁を沁み込ませて、大きな白い壁に達筆な書道家のように迫力の大文字を描いた!

『素敵な家ですね!』

 紳士は満足そうに頷き、去っていった。
その他
公開:20/03/17 00:00
更新:20/03/17 09:29
例の紳士

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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