トーンネル

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都会へ向かう電車に乗った二人の子供を見送った後、いつもと違う道を歩いて帰りたくなった。
「トーンネルを抜けて行こうか」
「あら、久しぶりねえ」
そのトンネルは入ると声のトーンが変わる事から、そう呼ばれていた。

「お父さん、今日は元気なかったじゃない。舞が結婚するから?」
トーンネルに入り声が高くなった妻は、幼い頃の娘にそっくりの声でそう聞いた。
私は一瞬声を詰まらせた後
「母さんこそ、息子の一人暮らしが心配かい?」
と、返した。
妻の返事は無い。恐らく今の私の声も、幼い頃の息子とよく似ているのだろう。
「寂しくなる?」
娘の声が私に聞く。
「寂しくなるかい?」
息子の声で私も聞く。
私達は暗がりで判然しない互いの表情を見つめ合った後、同じ言葉を口にした。

トーンネルを抜けると二人の声は元に戻った。
だが、その後ろで「また来るから」と言う子供達の声が、ずっと反響しているような気がした。
ファンタジー
公開:20/03/16 22:52
更新:20/03/17 08:42

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