11
9

機嫌良く口に盃を運ぶ彼を、私は笑みを
浮かべ静かに見つめる。
先程まで一緒だった接待先の相手にえらく気に入られ賛辞を得たらしい。
分かり易い上機嫌だこと。
私は笑みを崩さず自分の盃を飲み干し、
彼の空いた硝子に艶やかな液体を注ぐ。

接待先からの賛辞が羅列された後は、若い頃の武勇伝になるのがいつもの流れ。
毎年億の売上を伸ばし、街を歩けば挨拶をされ、女になぞ貢いだ事等はない。
充血した目をこちらに向け、彼は声高らかに話し続ける。

私は盃を見つめ思う。
なぜそんなに逼迫しているの。
誰に認められたいの。
誰に褒めてほしいの。
誰に頭をいい子いい子と撫でられたいの。
答えは盃の中には映らない。

彼の口調の熱が上がるにつれ、私の心は
音も立てず静かに冷めていく。
私は、貴方が貴方であれば良かった。
けど、もういいわ。

取り敢えずこのお酒は片付けなければ。
私は盃を開ける事に集中する。
恋愛
公開:20/03/16 20:53

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容