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格子窓の隙間から注がれる朝日が顔に当たり、自然と目が覚めていく。白黒ボーダー柄の服に、手錠をかけられた男。凡そ20年間部屋から出された事はない。

独房と呼ぶべきその部屋。無機質な煉瓦壁と開くことのない鉄の扉、あとは窓と寝心地の悪いベッド、トイレ用の小さな穴しかない。古い赤煉瓦の壁は目地が崩れ果てていた。男は煉瓦を二つほど取り外し、分解した手錠の輪を使い穴奥の煉瓦を削り始める。風化した煉瓦は思いの外脆い。

偶然壊れた手錠を掘削器として利用し始めて幾年か経った。いつも通り刮ぎ落とした欠片をトイレに投げ捨て、男はいよいよ脱出を試みる。小さかった穴は、簡単に崩れる煉瓦に合わせすぐに朝日を覗かせた。

男は穴から外に出る。生まれて初めての外気は男の体を軽くした。逃亡に気付く者は、いない。両親も兄も彼を忘れ談笑を楽しんでいる。

男は走り出した。どこに行くでもなく。無邪気に笑いながら。
ホラー
公開:20/03/18 00:00
更新:20/03/18 14:18

てつじょ( 福島県 )

ショートショートや短編小説、推理小説辺りが大好物。今はホラーやミステリー、SFにはまり気味。完全趣味で小説を書き始めたんですが、短いものだけでも発表しようかなと3月18日より投稿開始。皆さん宜しくお願いします。

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