雲居ヶ嶺貯雪ダム調雪塔より

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『ぶんきばし』と辛うじて読める橋脚にへばり付く様に、螺旋階段と赤屋根の目立つ調雪塔。数億㎥/s(季)を誇る貯雪槽は、満雪線すれすれまで埋まり、昨夜の嶺雪がその上に覆い被さろうと、渡橋すぐの防雪林を圧白し始めていた。

雲居ヶ嶺貯雪ダムは、白魔と呼ばれる超規模豪雪の軽減、ならびに年間降雪量の調整を目的に造られた防災ダムだ。橋と堰堤(えんてい)は分季線の役割を果たし、下界の大気と雲を整えながら、時季に応じた質量の雪を降らせてきた。
しかし繰り返す下界の変転は、次第に雪を滞らせ、嶺の内ばかりに降り積もらせ、放雪出来ず溜まり溜まった雪が、ついに臨界点を突破しようとしている。

凍った雨が雪なのではなく、融けた雪が雨なのだ。雪と共に雲の吐き出し続けた凍気が、分厚いダム壁を削り壊し、修復不能に罅を入れた。
ダム決壊の悲鳴と共に、下界は長い春と別れ、永い冬を迎える。
間氷期が終わり、氷河期が訪れるのだ。
ホラー
公開:20/03/17 00:07
間氷期: 氷期と氷期の間の断続的な温暖期

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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