不眠症ホテル

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肥満症の巨女は一人きりの部屋で鏡に裸身を映す。からだが大き過ぎて鏡に入りきらない。巨女は怒って鏡を割る。一夜に一枚かならず割る。

退廃的な音楽を求めてフロントにリクエストがあった。老舗問屋の息子だ。放蕩息子は部屋の大きなスピーカーに貼り付いて、全身で振動を聴いている。

骨の硬い女医が一人きりで眠れる薬を調合する。相棒の薬剤師が数年前の年末に屋根に上ってそのまま消えた顛末を詳細に解説しながら。

ひっそりと相部屋の客とベッドの下で駆け引きを持ちかけるのは反体制派の活動家。バックギャモンが彼の好みだがオセロでも可能である。

常連の映画監督が今夜も部屋でリハーサルを行う。そのたびに女優男優が押しかける。ルームサービスは大忙し。いつも蛙の照り焼きが欠かせない。

眠れない宿泊者のために一晩中、ラウンジで映写会が催される。上映は決まって五幕のショートフィルム「不眠症ホテル」の繰り返し。
その他
公開:20/03/15 06:00

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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