碧-前-

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碧が舞う。

ひらひらと群青の鱗粉を散らしながらこの庭の何処かに漂っているらしい。
茶色い、陽に透ければ黄金に輝く髪を持つ彼女しか、あれの跡は辿れない。
いや、彼女が一人で出来る唯一の事が、
あれの跡を辿る事であった。

彼女の何が特別なのか。
ただ、私は彼女のふらふらと歩く後姿を
追っていると、彼女の柔らかな髪の中に
顔をうずめたいと強く思った。

時々、手をそろりと伸ばし、消えそうに
細い毛先に触れてみる。
気づかれないように。
それだけで、私の胸は締め付けられる。
懐かしい、あの時の記憶、匂い、映像、
頬を撫でる風の感覚、全てが蘇る。
永遠にこの時間が続けば良いのにと。
ファンタジー
公開:20/03/14 21:15

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