見えない歌を歌うよ

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地図には載っていない見えない国。その国の広大な草原でサミットは開かれる。
無名の画家である私に招待状が届いた理由を知りたくて、私はサミットの事務局に電話をかけた。
「いるとは思えぬ時間におかけ直しください」
日中にもかかわらず応対は留守番電話だった。
サミット当日、事務局長を名乗る男の気配が私のことを迎えに来た。
「先日の絵は素晴らしいものでしたね」
どこにも発表していない絵を、男の気配は絶賛してくれた。確かに自分の絵とは思えぬほどのいい出来だった。
会場では世界中の表現者が見えない力の源泉を語り合った。ただわからぬものはやはりわからず、私は手を合わせるような気持ちで、夜とは思えぬ白い空を見ていた。
風になびくその空は空ではなく空を覆う巨大なマスクだ。
誰かの叫びに私たちはヌーの群れのように走り出す。
見えないものにおびえながら、見えぬ何かに救われた私の過去が、今、太陽を描き、太陽を歌う。
公開:20/03/16 11:46

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