混声の夜明け

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午前五時前。東の空がうす明るい。
深夜まで車が流れる大通りもひっそりと静まる。ビルの屋上からはビジネス街が乾いた板きれのようだ。
俺は金融トレーダー。地球の裏側と取引するため業務時間は深夜から朝まで。夜明け近くに屋上に出て外の空気を吸うのが習慣だ。
ビルが建ち並ぶ地表からかすかに唸り声が聞こえる。車の音でもなく深夜の道路工事でもない。人間の声というより犬が吠えるような、牛のような、猿のような、いろんな動物を集めたような声が地平線から聞こえる。声は太陽が昇る時に一段と大きくなってぱたりと消える。
屋上に出て声を聞くうちに俺も吠えたくなった。意味もなく何か言葉でもなく、ただ大きな声で空に向かって動物のように叫んでみたい。日が昇る。
ウォーッ!!
何ともいえず爽快だ。
次の朝も同じように叫んだ。一週間ほど続けたある朝、隣のビルの屋上から甲高い声が聞こえた。どこかのビジネスウーマンが吠えていた。
その他
公開:20/03/16 07:24

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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