纏う物

9
7

クローゼットのドアを開ける。
目の前に広がる色様々の生地、素材、刺繍やレエス。

今夜は和食だったかしら。
お店の名前を思い出し、いつも通される
部屋を描く。
畳の優しい色と和紙から漏れ出す光。
輪郭が掴めないような灯には、肌と同色の透けるブラウスを。
肌か生地かの境目が判らないような服は、彼の好みだろう。
下はね、皴になるスカアトは大嫌い。
あ、真黒な革のスカアトが在るわ。
このスリット、お手洗いに立つ私の後姿を見て、彼はどう思うかしらん。
いそいそと鏡の前で選んだ子達に腕を脚を通す。
装飾品は、華奢で飛びっきり良い品を。
男が要らない時は指輪の数で察して。

最後に靴、ん、今日はこの子にしましょ。
真赤な靴底に女のプライドが覗く。
コートを羽織るのは野暮ったい。
代わりに上等な毛皮を首に巻き付け、先程から待たせているタクシーに乗り込む。
彼女の豊満な香りだけが夜に消えていく。
恋愛
公開:20/03/15 21:01

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容