碧-後-

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右、右、左、右、右。
彼女は歩く時、どんな花も踏まないように注意深く一歩一歩を踏み出す。

歩みが止まる。
目の前には、自由に伸びている野草、
そして井戸。所々に亀裂が入り、中を覗くと全ての黒を凝縮した闇が、こちら側を
覗き返してた。

ここなのか。
そろりと彼女の横顔に目を配る。
彼女は笑みを浮かべ素早く口にする。
聞き取れない程の声で、何か大事な古い
メッセージを唱えるように。

一瞬の出来事だった。

彼女は井戸に脚をかけ、
音も無く黒に落ちていった。

目をありったけ開き、闇の中を覗く。
あれだ。
あれが生きている。
うごめいている、闇の中で、
彼女と同化しながら。

その瞬間、私は考える間も無く走り出していた。

彼女はもう戻って来られない。
私はあの柔らかな髪に顔をうずめる機会を永遠に失ったのだ。

あの陽に透ければ黄金に輝く煌めきを。

底を打つ音は、まだ聞こえない。
ファンタジー
公開:20/03/15 18:31

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