佐藤さんの抜け殻
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総務部の佐藤さんの机には、いつもあらゆる小物が乱雑に転がっていた。
「片付けはあまり得意じゃない?」
おれが最初にそう声をかけたのは、いち先輩としての注意だったはずだ。
「いえ、片付けてはいるんですが、勝手に脱皮するので散らかるんです。」
彼女は興味深いことを語り出した。
「例えばこのスティックのり。無くなりそうになると、皮が剥けて、新品に生まれ変わるんです。」
それからというもの、おれは頻繁に総務部を訪れては、文具の脱皮を見せてもらったり、他愛無いことで談笑するようになった。
暫くしたある日、彼女の姿が消えていた。
「ああ、佐藤さんね。結婚して退職したよ。隣の部署なら、知る由もないか。」
彼女のいた椅子には、人の抜け殻がペロンとかけられていた。佐藤、じゃなくなったんだな。
おれの胸がチクチクと傷むのがわかった。どうやら心の脱皮には、少し時間がかかりそうだ。
「片付けはあまり得意じゃない?」
おれが最初にそう声をかけたのは、いち先輩としての注意だったはずだ。
「いえ、片付けてはいるんですが、勝手に脱皮するので散らかるんです。」
彼女は興味深いことを語り出した。
「例えばこのスティックのり。無くなりそうになると、皮が剥けて、新品に生まれ変わるんです。」
それからというもの、おれは頻繁に総務部を訪れては、文具の脱皮を見せてもらったり、他愛無いことで談笑するようになった。
暫くしたある日、彼女の姿が消えていた。
「ああ、佐藤さんね。結婚して退職したよ。隣の部署なら、知る由もないか。」
彼女のいた椅子には、人の抜け殻がペロンとかけられていた。佐藤、じゃなくなったんだな。
おれの胸がチクチクと傷むのがわかった。どうやら心の脱皮には、少し時間がかかりそうだ。
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公開:20/03/13 19:05
更新:20/03/13 19:22
更新:20/03/13 19:22
結婚し、幸せになりを潜めて3年。
再び書きたくて登場。
多分そのうちまた消える。
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