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奈保子のおばあちゃんは、老人ホームで暮らしていた。この頃おばあちゃんは、自分が15、6歳の女学生だと思いこんだり、懐かしい人たちの名を呼ぶことが多くなった。
老人ホームのスタッフたちはそんなおばあちゃんのことを優しく世話した。ただ、一つスタッフたちを困らせてしまうことがあった。おばあちゃんがゴネるとなかなか、機嫌が直らない。
「火星の桃が食べたいんじゃ」
「火星の桃? そんな果物、あったっけ?!」
奈保子は、おばあちゃんの昔語りを思い出しておばあちゃんの欲しがっていたものを持ってきた。おばあちゃんは大事そうに両手で受け取り頬張った。

何十年も前のこと。天文学者を目指していた若者が娘時代のおばあちゃんに言いました。「あの西の空に見えるのが火星。ほら、火星の桃をあげる」

スモモを口にしたおばあちゃんは、翌日、西の空に赤い星が見える夕刻、幸せな笑みを浮かべながら旅立っていきました。
ファンタジー
公開:20/03/11 23:29
schoo 火星の桃

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