海津桜
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河津桜は、毎年二月上旬から三月上旬に咲く桜だ。ピンクの濃い大ぶりの花が、一足早く梢から春を告げる様は、いかにも麗らかで艶やかで、時流に沈みがちな心を引き上げてくれる。
桜の里である河津町では、今年も例年通り桜まつりが開かれていた。加速する暖冬と、感染症の影響で客足は減っても、人の心は『花』を求める。いつ果てるとも知れぬ闇にも、明るい兆しを見たいのだ。
まつりから一夜明けた三月十一日、町の人達が不思議な光景を見たという。
満開に花を結んだ河津桜が、一斉に散ったのだ。
無数の桜は波立ち、うねり沸き立ち、午後の風に乗って川を下り海を目指した。流れ流れ流れ、桜色の潮流が渡り行く先を追って、人々は自然に頭を垂れた。
それは数分の幻で、垂れた頭を戻す頃、桜は変わらず頭上を彩っていた。
「もう九年か」
誰かが呟いた。
時は等しく過ぎるもの。記憶は風化されゆくもの。それでも忘れ去りはしないのだと思った。
桜の里である河津町では、今年も例年通り桜まつりが開かれていた。加速する暖冬と、感染症の影響で客足は減っても、人の心は『花』を求める。いつ果てるとも知れぬ闇にも、明るい兆しを見たいのだ。
まつりから一夜明けた三月十一日、町の人達が不思議な光景を見たという。
満開に花を結んだ河津桜が、一斉に散ったのだ。
無数の桜は波立ち、うねり沸き立ち、午後の風に乗って川を下り海を目指した。流れ流れ流れ、桜色の潮流が渡り行く先を追って、人々は自然に頭を垂れた。
それは数分の幻で、垂れた頭を戻す頃、桜は変わらず頭上を彩っていた。
「もう九年か」
誰かが呟いた。
時は等しく過ぎるもの。記憶は風化されゆくもの。それでも忘れ去りはしないのだと思った。
その他
公開:20/03/11 22:25
河津桜まつりに寄せて
2011年3月11日
14時46分18秒
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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