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ーーふわり、と心地の良い浮遊感。こんなにも穏やかな気持ちになれたのは初めてかもしれない。

僕は幼い頃、よく遊んでいた友人を思い出した。続いて三日間だけ預かったラブラドールのことや、電源の入らなくなったゲーム機、初めて買ったネクタイピン。忘れていた記憶が、脳内を駆け巡っていた。

ようやく、弟の顔も思い出した。両親の泣き顔が浮かんだのは一番最後だった。

僕はとても穏やかであった。それと同時に、かつてないほど意識が覚醒し、記憶を辿るシナプスが脳内のあちこちで繋がっていくのを感じられるかのようであった。

生涯を懸けても達し得ない真理を、まさに今、眼前にしている。

ーーこれほどの幸福があるなんて……。

表現するに難い解放感と共に、ふと頭の片隅を支配するのは、「こんなものか」というある種の落胆だった。

ーーまあいいさ。野次馬が騒がしくなってきた頃、僕はもう天国にいるはずだ。
その他
公開:20/03/11 20:25

游人

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