短い夜 男と酒

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 度数の高い酒のせいで、頭が締めつけられるように痛い。
 両側をビルに挟まれた窮屈な路地で、私は足をふらつかせた。
 娘が結婚する、と報せを受けてから、ずっと自宅に帰っていなかった。
 歩き、歩き続けて、昭和の頃から続いていそうな、懐かしい雰囲気のバーに転がり込んだ。濡れた石鹸のように光沢のある木製のバーカウンターで、何杯か酒を注文した。閉店時刻になっても、私はまだ深夜二時くらいの気分だった。若い頃は、バーで過ごす夜が、もっと永遠のように感じられたというのに。
 冷気に身を縮こまらせ、コートの襟を立てた。
 自分が今、どこを歩いているのかよく思い出せない。
 次に娘に会ったら、どんな言葉をかければいいだろうか。
 うまく目を見て話せるだろうか。
 ビルのシルエットから漏れる遠い薄光が、アスファルトを輝かせる。
 暗がりの幻影は白く洗われて、夜は終わりを告げていた。
その他
公開:20/03/11 19:12
更新:20/03/11 19:14

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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