特攻薬

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「最初はなんだかニヤニヤするのが止められなくて、気付いたら周りの景色が一斉に踊り出したの。近くの戦車のキャタピラも、一枚一枚が弾んでいるのが見えたわ。」

彼女は饒舌だった、高揚しているのだろう。

「それでね、私たちの行軍の足音がキャタピラに合わせてリズムを刻んでいくの。皮膚が風を纏って、汗が出ないのよ。担いでいた銃の重さだって感じない」

僕は彼女の言葉を手帳に書き込んでいく。

「空を見上げると幾重にも重なった曼荼羅が見えて、そこから筋となった光が私たちを照らしたわ。まるで祝福されてるみたいに。聖戦の意味を直感したわ」

そこで彼女は言葉を切ると、退院の予定日を訊ねてきた。「もうすぐですよ」と、何度も繰り返した答えをまた口にする。彼女は特に気にした素振りもなく、「そっか」とだけ返答した。
病室を出た僕は急いでメモを追記した。

『例の歩兵用向精神薬には強い幻覚と記憶障害の副作用有り』
SF
公開:20/03/12 21:12

游人

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