春の風物詩 変態

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 家の向かいの小高い丘は水を含んだ深い緑に覆われ、まばらに小さな花を咲かせはじめていた。そのなだらかな斜面を愛撫するように、早春の艶やかな風が吹きわたり、清々しい薫りがこの体を包み込んでくれる。
 ああ、どうして服など着ていられようか。僕は全裸で春と抱擁したい。だから生まれたままの姿で街を歩くのだ。
「おはよう」
 道ゆく人に手を振り挨拶をした。ほら、君もスマイル、スマイル。
「春ですね!」
 横断歩道で街の人と笑顔を交わす。そんなに恥ずかしがらないでよ。人類皆兄弟。僕らは心のヌーディスト!
「やっほう!」
 僕は全裸で電信柱によじ登り、木の枝に付いていた葉っぱを千切ってはむしゃむしゃ頬張り、小鳥たちと鳥声で語り合い、雄叫びを上げた。
「春だあああ! やっほう!」

 穏やかな日差しを浴びて、今年もパトカーのサイレンが聞こえてくる。
「お巡りさん、春ですね!」
「はい、いいから、降りて!」
その他
公開:20/03/12 08:37
春の風物詩

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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