勇者

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火星から小さな光が流れていった。
「またダメだったか」

月への宇宙旅行が当たり前になった今でも、火星は成功率5%である。にもかかわらず、火星を目指す親が後をたたない。

娘の3歳の節句に飾ると3代先まで幸せが約束されるという、火星の桃の花。その桃の花を手に入れようと、火星へと旅立つのである。

「地球のでも十分美しいと思うけどなー」背後に気配を感じつつ望遠鏡を覗く。
「で、行く日は決まったの?」妻の鋭い声が突き刺さる。「ユウちゃんももうすぐ1歳よ。そろそろ旅立たないと間に合わないわよ」

「…」

「いいわよ、私が行っても」
「え、マジで?」
「私の3歳の節句の時に、お父さんが火星の桃の花を採ってきてくれたの。でね、接ぎ木をしたわけ。今もうちの庭にあるから」
「あ、あの桃の木ってそうなの?なんだよ、じゃあ俺が」
「あなたの場合は、ちゃんと火星に行かなきゃダメ」
「なんで」

「なんでも」
その他
公開:20/03/10 20:20
火星の桃 スクー

いづみ( 東京 )

文章を書くのが大好きです。

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