海の底の図書館

30
25

マリンブルーが一段と濃い海の底に泡沫の記憶を閉じ込めた図書館がある。
そこには無限に続く棚が並んでいて、海に消え去った名も知れぬ人たちの生い立ちから最期の一瞬まで、一人ひとり一冊ずつ本になって収納されている。
誰がこの本を作って、海の底の図書館に所蔵したのかは定かでない。そもそも、この図書館がどうしてあるのかも知らない。
ただ一つわかっていることは、海で亡くなった人たちの存在を感じることができるのだ。悲しいとか淋しいという気持ちではなくて、確かに生きていた証があるという感覚だ。
海の底の図書館は、その日だけ現れる。鎮魂というと仰々しいけれど、きっと忘れてほしくないという思いが強くて現れるのだろう。そして、本を貸し出せるようにして、ひとりでも多くの人に読んでもらいたいのかもしれない。震災の記憶を風化させないために。
その日。海の底に辿り着くと、玄関口には「三・一一図書館」と掲示されていた。
その他
公開:20/03/11 05:49
更新:20/03/11 06:03
マリンブルー 海の底 記憶 図書館 鎮魂 東日本大震災 風化 「三・一一」

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容