海の底の図書館

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マリンブルーが一段と濃い海の底に泡沫の記憶を閉じ込めた図書館がある。
そこには無限に続く棚が並んでいて、海に消え去った名も知れぬ人たちの生い立ちから最期の一瞬まで、一人ひとり一冊ずつ本になって収納されている。
誰がこの本を作って、海の底の図書館に所蔵したのかは定かでない。そもそも、この図書館がどうしてあるのかも知らない。
ただ一つわかっていることは、海で亡くなった人たちの存在を感じることができるのだ。悲しいとか淋しいという気持ちではなくて、確かに生きていた証があるという感覚だ。
海の底の図書館は、その日だけ現れる。鎮魂というと仰々しいけれど、きっと忘れてほしくないという思いが強くて現れるのだろう。そして、本を貸し出せるようにして、ひとりでも多くの人に読んでもらいたいのかもしれない。震災の記憶を風化させないために。
その日。海の底に辿り着くと、玄関口には「三・一一図書館」と掲示されていた。
その他
公開:20/03/11 05:49
更新:20/03/11 06:03
マリンブルー 海の底 記憶 図書館 鎮魂 東日本大震災 風化 「三・一一」

山田衆三( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育ち、大学時代は京都(御所の近く)、大学院時代は湘南(海ではなく山側)で過ごす。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年06月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。

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