被験体

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感染力の強いウイルス性心臓病の感染が拡大している。
治療薬の開発には時間がかかる見通しだ。

ある若い医師がこのウイルスを研究し、
鼠の駆除薬に使用される成分が心臓病の
症状を抑えることができるという仮説を立てた。
ウイルス自体に効果はないが、症状を抑えれば命を救える。

だが、仮説を立証するには
実際の患者に成分を投与する「実験」が必要だ。
悩んだ末、彼はひとつの答えを出した。

月明りの射す夜。
彼は感染症病棟の廊下を一人歩いていた。
なんと、防護服も、マスクすらも着けずに。
病室の前で立ち止まり、静かにドアを開けた。

一人の女性がベッドで眠っている。
彼女の薬指には、彼と同じ指輪が。
「少し待っていてくれ。僕がきっと助ける」
そう言うと、彼は、彼女の唇にキスをした。

彼は自らを被験体にして、仮説を立証したのだ。
約一年後にワクチンが実用化されるまで、大きな役目を果たすこととなる。
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公開:20/03/09 12:09
更新:20/03/09 12:11
ウイルス 実験 キス

こぶし( 宮城県 )

さすらいの創作人。
作るお話はすべてフィクションです。本人はそう言い張ってます。

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