狙われた男、日本新。

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京都で銃声を聞いてから2日。私は背後に迫る銃弾からずっと逃げ続けている。
昔から走るのは好きだったけれど、この緊張感はつらい。立ち止まれば人生は終わり、妻や娘を路頭に迷わせることになる。そう思うと自分でも信じられない力が漲る。
銃弾の速度は一向に落ちない。すごい銃だと感心しながらも、なぜ私が狙われたのかがわからない。110番をしたくても、空腹でも立ち止まれない。雨を飲み、木の葉を食べて私は走り続けた。
ニュース番組で取り上げられると、日の丸を手にした沿道の人が声援とオムツをくれるようになった。
そして東京日本橋。大勢の観客の中に妻や娘の姿があった。
もういいから。充分だよ。きっと忘れない。の横断幕。大歓声に包まれて、私はやりきったという思いで走りをゆるめた。そのときだ。一匹のカナブンが私の胸を貫いてゴールテープを切った。きらめく虫の背にはペースメーカーの文字。
もう開いた口が塞がらないよ。
公開:20/03/08 20:43

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