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出会いは中学校の入学前、父親に連れられてふたりで出かけた時。

晩ごはんでも食べに行くのかと思っていたら、駅前にある時計屋に寄り、そこで買ってもらった腕時計。自動巻きで日付と曜日が表示される、当時としてはちょっと高いものだった。

ぶっきらぼうな父は何も言わなかったが、どうやら入学祝いだった。

お気に入りというのもあったが、高校入試や大学入試でも活躍してくれた。寡黙な父がそばで応援してくれてるような感じがしていたから。

しかし、卒業から20数年、いろいろと社会的に挫折した私は、時間に縛られる生活に疲れ、いつしか腕時計をすることもなくなり、自動巻きの時計は止まってしまった。

そんなある日、突然妹から電話があり、父の訃報を知らせてきた。

取るものもとりあえず飛行機に乗る時、なぜかその腕時計を持っていこうと思った。

動かない時計は

「お前の力だけで頑張れ」

と言っているようだった。
その他
公開:20/03/10 07:00
320 腕時計 入学祝い 自動巻き

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