完全犯罪

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「どうしたもんかなあ」
青年は右手に持っているアイロンを見つめている。
そのアイロンは少し特別だった。
熱でシワを取るという役割とは対照的に、あてた部分が氷漬けになるのだ。
つまり、見た目がアイロンの氷漬けマシーンである。
青年は珍しいものを手に入れたとはじめは喜んだが、これといって実益的な使い方がまったく思い浮かばなかった。

「どうだ?」
刑事は鑑識の男に声をかけた。
「それが少し不可解でして」
「不可解?」
「はい。死体がかなり低温の状態にされていたみたいなんです。おそらく死亡推定時刻を偽装するために」
「まあ、ありがちなものじゃないか」
「この部屋から死体は動かされていないんです。見てわかるとおり、体全体を冷やせる装置もありませんし」
そのとき別の部屋から涙声が聞こえてきた。
「母さんが、なぜ……」
鑑識の男と刑事は思わず目をあわせた。
「若いのに、不運ですね……」
ミステリー・推理
公開:20/03/07 22:22

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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