スペシャルシート

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ゆるやかな坂道を上がった角のところにその喫茶店はある。古い木のテーブル、大きなガラス窓。最近なじんできたソファに腰を下ろす。くたびれた布地に埃がたまっている。クッションの具合も良くはないけれどこのソファが妙に気に入っている。
店では音楽を鳴らさない。人のざわめきと店員の歩く姿がこの店の音楽だ。店の瀟洒なインテリアや街路を行き交う人々、それにガラス窓に映る空を眺めていると気分が落ち着く。過ぎ去った日々の思い出にひたる。このソファには店員は注文を取りに来ない。こちらの気の向くままにそっとしておいてくれる。
葉が肩に触れる。並木の落ち葉だ。気がつくと今日も半日ほどソファに沈んで過ごしてしまった。
職を失って、アパートを追い出されて三ヶ月になる。路上生活には慣れてきたが、このままでいいはずはない。これからどうするのか、真剣に考えなければいけない。
路上に打ち棄てられた古いソファから腰を上げた。
その他
公開:20/03/07 07:46
更新:20/03/07 13:59

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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