低気圧インナーワールド

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 窓の外は水に濡れたボール紙みたいな雨曇りだった。
 私はぼんやりと目を覚ました。
 長い間、夢の余韻を噛みしめる。
 ひどく疲れ、全身がぐったりとしていた。硬いフローリングの床が液状化しはじめ、静かに私の横たわるベッドごと深く沈降していくような気がする。
 わけのわからない虚無に包まれ、何かするための、その力を生み出す根源を、大切な何かを、私は見失い、遠い過去へ忘却してしまっている。情けなくて、息もつらかった。
 細々とした雨のさざめきだけが部屋に響き、小さく反響し、不偏の現実を歌い、私を打ちのめす。
 私は救いを求めるように、高級ヘッドホンをアンプに繋ぎ、耳にあてがった。
 ベッドの上で少しずつ音量を上げる。


 音楽を聴いた。
 音楽を聴くために。


 排水溝に流れ込む雨水のように、音楽が体内へと流れ込む。
 甘美な透明の流水は身体の末端に活動する細胞の隅々にまで浸透していった。
その他
公開:20/03/08 09:39

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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