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失恋したからって髪を切るような俗っぽい事などするまいと思っていたのに、気がつくと美容院の前に佇んでいた。
店長のトキオさんが見つけて招き入れてくれた。泣き腫らした顔に少し驚いたふうだったけど何も聞かずに私をシャンプー台に誘った。
無造作に結んだヘアゴムをそっと外し、仰向けになった私の顔にタオルをかけてトキオさんはシャンプーを始めた。

失恋したからじゃないわ。シャンプーしたかっただけ…

と、突然1頭の馬が現れて言った。
「そのポニーテール、良かったらいただけませんか?お礼に…新しい恋を。」

「いいわよ。」

自分の声で目が覚めた。
髪をふきながらトキオさんが笑った。
「寝ちゃいましたね。」
「寝ちゃったわ。」

「はい、どうぞ。」
鏡の中に先程とは別人のように明るい私がいた。
床には思いきり切った長い髪がまとめられている。

「この髪…」
「馬にですね。」
トキオさんがにっこり頷いた。
その他
公開:20/03/06 11:21
更新:20/03/23 08:03

文月そよ

のんびりゆるぅり書いてみたいと思います。

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