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虹立ちて忽ち君の在る如し 高浜虚子
妻のみな子は風変わりな女性だった。
まだ息子が小さかった頃、みな子は出勤する私にこう言った。
「十四時になったらね、起きなさいってテレパシーを送って欲しいの。いつも昼寝をし過ぎるから」
「テレパシーなんか使えないよ。目覚ましをかけたら」
「だめよ、坊やも起きちゃうじゃない」
バカバカしいと思いながらも、私はみな子の言に従った。本当かどうかはわからないが、彼女は起きることができたと喜んでいた。
あれから二十数年、彼女は今、目の前の墓の下だ。雨上がりで、墓石には百日紅の花びらが張り付いていた。息子が大きな手で墓石を洗う。線香をあげ、手を合わせたあと、ふと腕時計を見た。
(十四時か)
起きてくれよ、みな子。
懐かしさが込み上げる。
「父さん」
息子の声に振り返ると、空には大きな虹がかかっていた。
「みな子、起きたんだな」
呟きは、一陣の風が攫っていった。
妻のみな子は風変わりな女性だった。
まだ息子が小さかった頃、みな子は出勤する私にこう言った。
「十四時になったらね、起きなさいってテレパシーを送って欲しいの。いつも昼寝をし過ぎるから」
「テレパシーなんか使えないよ。目覚ましをかけたら」
「だめよ、坊やも起きちゃうじゃない」
バカバカしいと思いながらも、私はみな子の言に従った。本当かどうかはわからないが、彼女は起きることができたと喜んでいた。
あれから二十数年、彼女は今、目の前の墓の下だ。雨上がりで、墓石には百日紅の花びらが張り付いていた。息子が大きな手で墓石を洗う。線香をあげ、手を合わせたあと、ふと腕時計を見た。
(十四時か)
起きてくれよ、みな子。
懐かしさが込み上げる。
「父さん」
息子の声に振り返ると、空には大きな虹がかかっていた。
「みな子、起きたんだな」
呟きは、一陣の風が攫っていった。
その他
公開:20/03/06 14:00
読んでくださりありがとうございます。
小学生の頃、「世界中の本をぜんぶ読んでしまったら退屈になるから、自分でお話を書けるようになりたいな」と思いました。
僭越ながら、子どもの頃の夢のまま、普段はショートショート作家を目指して、2000字くらいの公募に投稿しています。芽が出るといいな。
ここでは思いついたことをどんどん書いていこうと思います。
皆さまの作品とても楽しく拝読しています。毎日どなたかが更新されていて嬉しいですね。
よろしくお願いしますm(_ _)m
*2020.2〜育児のため更新や返信が遅れておりますが、そんな中でもお読みくださり、コメントくださり本当にありがとうございます!
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