たらいクリニック

友人のマルテンサイト氏、通称マルちゃんがやってきた。何でもしばらく心を病んでいたのだという。でも元気そうだねというと、あるクリニックで治してもらったという。そのクリニックは高層ビルの最上階。マルちゃん好みのクールな女医さんが、問診のあと窓際に案内した。テーブルに、平凡なたらいがひとつ、たらいには水が張ってある。女医はマルちゃんに、たらいのなかに顔をつけ、目を開けてみえるものをじっとみるようにと言った。言われる通りマルちゃんは顔をずぶりと漬けると目を開けた。たらいの底をみてると次第にゆらゆらと形がみえてきた。人の後頭部みたいだ。目を凝らすと、あ、自分の後頭部だとわかった。その途端に息がつづかなくて、ざぶっと顔を上げた。この治療のおかげで翌日から急に気分が良くなったんだと言ってマルちゃんは帰っていった。
そんな治療法が本当にあるのかどうか、マルちゃんの話だから疑わしいものである。