森の中の覚醒

ベンチャー起業家たちが好んでいく森がある。
この森は地方都市の外れにあり、さほど広くはない。
しかし、ここで森林浴をするといいアイディアが生まれると評判なのだ。
森の中を数時間歩き、そのあと木に寄りかかって瞑想する。
すると、次々と新しいビジネスプランが浮かんでくるそうだ。
彼らの画期的な発想は話題を呼ぶことになる。

数年後、若き起業家の失踪が相次いだ。
しかし、失踪の理由を気にする者などなく、ここぞとばかりに、ライバルたちは新企画を売り出そうとする。
斬新なアイディアが欲しくて、野心ある若者たちが、あの森に行く。
森の中では、エネルギー溢れる若者たちが、長時間散策し、大木の下で思考している。
森が以前の倍の広さになっていることを、気がつく者は誰もいない。
木々は、大地にずっしりと根を張り、空が見えなくなるほど若葉を茂らせた枝は、ゆっくりと揺れていた。