キャンディキャンディ

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平日の昼下がり、マンション近くの幼稚園から声が聞こえる。母親たちが迎えに来る時刻なのだろう。首を伸ばして窓から見下ろすと園児たちが門から散るように出てゆくのが見えた。
机の上の箱からキャンディを一つつまんで口に入れた。甘い。甘すぎる。口の中でねっとり溶けて甘い膜が広がる。もう一つキャンディを取り出す。包み紙には「忘れ得ぬ甘さ」。口に入れる。キャンディが溶ける。口の中にまた甘い粘膜が広がる。今度は少しミントの味がする。
彼女はキャンディと呼ばれていた。付き合っていたことがある。甘い性格の女の子だった。べたべたと楽しかった。キスの味もとても甘かった。どうして別れたのだろうか。今となっては彼女の甘さしか覚えていない。キャンディ。歯も歯ぐきも舌も口腔ぜんぶに甘さが充満してきた。忘れ得ぬ甘さか。
日が低くなった。
パソコンに向かう。今夜のうちに仕上げてしまおう。キャンディに関する調査報告書である。
その他
公開:20/03/04 09:31

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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