信号虫

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町には信号虫があった。
大通りにひとつだけあるそれは、見た目も機能も一見普通の信号機だが、よく見ると赤青黄の点滅部分が虫になっていた。

「赤色虫は危険だよ」
と、緑のおばさんが忠告してくれたのに、圭ちゃんは虫を無視して横断歩道を渡り始めた。
「信号無視は危ないよぉ」
「車、ぜんぜん来てないやん」
歩道の中ほどまで来ると、ぶぶぶぶぶぶぶという羽音とともに大きな赤い信号虫が圭ちゃんの首筋に止まった。
「うわぁっ!」
必死で赤色虫を振り払おうとしたが、六本の節足でがっちりと挟まれて身動きが取れない。赤虫は真っ赤に光る腹の下から針を伸ばし、圭ちゃんの首筋に何かを注ぎ込んだ。
「ゔわわわわわわわっ!」
圭ちゃんの体は震えだし、手足がにょきにょきと伸びてゆくと、まるで電信柱のような姿になった。

「新しい電人柱ができたね」
緑のおばさんはそう言うと、圭ちゃんだった物の手足を鎌で綺麗に切り揃えた──。
ホラー
公開:20/03/05 02:36
更新:20/12/27 20:21
信号無視はヤメましょう! 8月20日「交通信号の日」 ショートショートカレンダー 緑のおばさんはカマキリ

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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