ステーキを食べる木下君

　白いコック帽を頭に載せた一流シェフが、鉄板で80gの牛肉を焼いている。
　その光景を眺めながら、木下君は腹を鳴らした。商談がうまく進んだ祝いのランチだ、と部長は横の席で笑う。焼き上がった肉は、大きな陶器の皿に野菜を添えて、小さく盛りつけられた。変わった風味のソースを付けて舌に載せると、なんともオシャレな味わい。だが、なぜか満足ができない。

　同日仕事を終えると、木下君は足早に会社を出た。
　もうダメだ！　もう我慢できない！
　近場の庶民向けステーキ店に入って、すかさず食べ放題のコースを注文する。バターたっぷりの300gステーキをガーリック醤油ソースを付けてまずは一口頬張る。好きなだけ遠慮なく食える！　これが一番だ！
「ステーキおかわり！」
　上質な肉ではないかもしれない。おしゃれな隠し味も使われていないかもしれない。だけどいつもの安心できる味！
　やっと満足できた、木下君であった。