長命持

「ねぇ貴方。世の中、間違っていると思いませんか？」
消費期限の迫った長命寺が、縁側でぐだぐだくだを巻く。
黙って餡を巻いていればいいものを、生菓子だけに生意気だ。人が席を外した間に、茶まで啜りおって。茶酔いでもしたのだろうか？
「この優雅な佇まい。ふくよかな餡。私、長命寺こそ元祖桜餅。桜餅と言えば長命寺なのです。……だのに、あの道明寺の新参者め！」
びたん！と長命寺は生地の端を盆に叩き付けた。生地で餡を巻く長命寺は関東、道明寺粉で餡を包む道明寺は関西を主力とする。桜餅と言えば一般に長命寺を指すが、近年は道明寺の人気が高まっている。
「道明寺など、桜色のぼた餅も同然。ねちねち粘って見苦しいわ、小さいわ餡は少ないわ、おまけに……」
ぐちぐち愚痴がうるさい。そして小麦粉生地のお前は、もはや餅ですらないぞ。指摘の代わり、ひょいと持ち上げ口中へ。
最後は泣きが入ったか、剥がし忘れた葉が、妙に塩辛い。