桃源郷書店

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俺の住んでいる街には、摩訶不思議な店が多くて「桃源郷書店」もそのひとつなんだ。
この書店、その人が欲しいと思う本は絶版していても、どんなに古くても必ず手に入るんだ。しかも本の値段は刊行当時のままで、値段のない古文書は店主が格安の言い値で売るというから驚きだ。
ただ、この書店、店主が俗世を絶って放浪の旅に出ることが多いらしくて、開店していることのほうが稀で、幻の書店と呼ばれている。
店主が旅から戻ると、大変レアな本や古文書が所狭しと店内に並べられる。それらは、蒐集家にとって垂涎の的らしくて、店主がタイムトラベルでもして手に入れているのではないかと真しやかに囁かれているほどだ。
店主が旅に出る理由は、桃源郷を探し求めているからといわれているけれど、実は、この店主、風貌が仙人にそっくりで、桃源郷の住人ではないかという噂もあるんだ。
そこで今度、店主に頼み込んで弟子入りさせてもらおうと思っている。
その他
公開:20/03/03 09:18
更新:20/03/03 09:20
桃源郷 書店 古文書 店主 俗世 仙人 弟子 桃の節句

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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